IT開発者としてAI開発に携わり、また研究者として学際的な研究活動を続けていると、私たちが生きているこの時代が、かつてないほど「境界」に満ちた時代であることを強く実感します。
たとえば、以下のような境界です。
・社会科学と自然科学
・人間知能と人工知能
・真実と虚構
・仮想と現実
こうした境界は、以前は比較的明確に区別されていました。しかし今、それらは急速に溶け合い、曖昧になりつつあります。
私は20年以上、ホビーの時代を含めれば30年近く、ITやプログラミングに関わってきました。CUIからGUIへ、パソコン通信からインターネットへ、固定電話から携帯電話、そしてスマートフォンへ。数々の技術的転換点を目の当たりにしてきましたが、なかでもAIの進化は群を抜いて劇的です。
検索エンジンに自然言語処理が使われ始め、TensorFlowの登場に胸を躍らせ、オントロジーやセマンティックWebに未来を感じていたかと思えば、それらはいつの間にか「AI」として統合され、気づけば実験やおもちゃの域を超え、瞬く間に実用レベルへと到達していました。
そしてAIは、もはやパソコンやスマートフォンといったデバイスの中だけに留まりません。空間(アンビエント)へ、組織へ、社会全体へと舞台を広げ、私たちの行動や意思決定そのものに影響を及ぼし始めています。
実のところ、当社は以前、より技術志向の強い会社でした。しかし、この時代状況を見据える中で、次第に「人間中心」へと舵を切るようになりました。さらに現在では、人間中心という枠を超え、「環境中心」へと視座を広げています。そこには、人間だけでなく、ロボットやAIも自然に存在します。
弊社のイメージキャラクターであるコトロボンは、人間の隣で当たり前のように生活するロボットとして描かれています。コトロボンの創造にあたり、『キテレツ大百科』のコロ助や『火の鳥』のロビタ、『インターステラー』のTARS、『スターウォーズ』のR2D2など、フィクションのキャラクターたちの影響を受けています。コトロボンは新しくて古いロボット像なのです。
私たちは、この曖昧さと不確実性(VUCA)に満ちた時代において、技術中心から環境中心の理念へと方向転換を図っています。しかし正直なところ、まだ明確な答えや遠景が見えているわけではありません。
それでも、この時代には確かな希望があります。それは、AIという強力な技術が、一部の巨大企業や富裕層だけに独占されず、多くの人々に開かれているという事実です。フリーミアムやオープンソースといった文化を経てきたからこそ得られた、大きな恩恵だと感じています。
もっとも、AIが誰にでも開かれているからといって、誰もが容易に使いこなせるわけではありません。デジタルデバイドという言葉が象徴するように、情報やテクノロジーの格差は、やがて経済格差や社会的分断を生み出します。取り残された人々を「勝ち負け」で切り捨ててしまえば、その歪みは必ず社会全体に跳ね返ってきます。私たちの社会はすでに、そのことを経験してきたはずです。
弊社は、この難しい時代において、すべての人々にテクノロジーの恩恵を届けることを目標としています。それは、私たち自身が境界に立ち、その境界を自覚しているからこそ取り組める役割だと考えています。
少し難しい話になってしまいましたが、いずれもう少し整理したかたちで、改めてこのテーマについてお話しできればと思います。
AIと境界の時代
